◇先月発見される 父、サイクリングを日課に
2年前の広島土砂災害で、長男の湯浅康弘さん(当時29歳)を亡くした両親の元に先月、警視庁から一本の電話がかかってきた。「息子さんの自転車が見つかりました」。災害前に康弘さんが東京で働いていた際に盗まれたものだった。「『もう若くないんだから健康のために運動しなさい』って言ってるのかな」。思いがけない息子からの“プレゼント”で自宅前の堤防沿いを走るのが父吉彦さん(63)の日課になった。
広島県三次市の康弘さんの実家では毎朝6時半、持ち主のいなくなった携帯電話のアラームが響く。「おはよう。今日も見守ってね」。母玲子さん(58)はアラームを止め、遺影に語りかける。
玲子さんは「真夏の土砂の中に1週間も眠っていたんだから、のども渇くよね」と麦茶の入ったコップを新しいものに置き換え、郵便局員の吉彦さんも「行ってくるな」と声を掛けて仕事に出る。
2014年8月20日朝、新婚だった息子夫妻が暮らす地域が土石流に襲われたと知り、両親はすぐに現場に向かった。香川県から駆けつけた妻みなみさん(当時28歳)の両親と一緒に、捜索活動を見守る日々が続いた。「自分の手で助け出してあげたかった」と玲子さんは振り返る。
災害直後、息子宛ての郵便物が実家に次々と転送されていたが、やがて途絶えた。「ああ、本当にいなくなってしまったんだな」。息子の死を実感することも多くなった時にかかってきたのが警視庁からの電話だった。
見つかった自転車はすぐに広島に送ってもらった。久しぶりに息子が帰ってきたような不思議な気持ちになった。「案外乗り心地がええんですよ」。吉彦さんの表情が緩んだ。
あれから2年。夫妻も含め入居する4世帯8人全員が死亡した広島市安佐南区八木3のアパート「ルナハイツ」の跡地には20日未明、吉彦さんと玲子さんの姿もあった。花を手向け、「ここに来ると涙が出るけど、前向きに生きていかないとね」と語った。【石川将来】
2016年08月20日
毎日新聞(無料)から
(引用)
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広島土砂災害2年:「息子」が帰ってきた 遺品の自転車
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